福田教授の総回診【第11回】チーム力と ON OFF の指導

サッカーは集団スポーツである。数の多さで言えば、ラグビーの15人に次ぐ、1チーム11人でのチームスポーツである。もちろん優れた「個」の集団であることが望ましいが、それでもチーム力が勝敗を決する割合はバスケットボールより高く、当然テニスのダブルスより高い。
その「チーム力」とは何か。色々な角度・観点からいろいろな定義があるが、サッカーに特化して考えると、「浸透した戦術」とか「全員攻撃・全員守備」とかが、チーム力をうかがわせる言葉のようだ。
また、チーム力をうかがわせる言葉として、メンタル面で「FOR THE TEAM」「ONEFOR ALL ALL FOR ONE」がある。サッカーで「DO MY BEST」とか「毎試合ハットトリック」とかを目標に掲げる選手は少ないであろう。

9対9でおこなう、野球でも打席に立つのはボックスの中には1人、ピッチャーはマウンドからホームベースに向かって、ルールにのっとった投球をする。その1対1のなかで規定回数までにどう相手よりも多く得点を取るかである。おかげで、スクイズを小飛球にしてダブルプレーで敗戦を迎えたバッターや、さよならエラーをした野手、押し出しの四球でサヨナラ負けした投手など、チームの敗戦の主犯にまつりあげられることもある。そういうシーンは探せばかなり多くあるであろう。
しかしサッカーとは22人にボール1個の競技でボールと22人の競技者がある意味無法状態で、ゴールを目指していく。瞬時にいろいろな局面で相手をだましたり、裏をかいたりしながら判断し、技術を発揮していく。当然敗戦に「タラレバ」はつきものだが、サッカーでの敗戦の戦犯は決定機をはずした選手、PK戦でのキックミスやあきらかなGKのミス・オウンゴール、そしてゲーム早々での1発退場くらいか。
こうしてみるとサッカーは「個人<チーム」であり、個人の責任の薄い分ある意味「無責任」なスポーツである。(素人が見て思うところの)野球とサッカーを競技中の「ON」で考えてみると、
野球のON・・・守備機会が生じたときの野手・バッターボックスに立っているバッター・塁上にいるランナー(最大3人)・守備機会における投手・捕手サッカーのON・・・ボールを今すぐにでも奪えるチャンスのある守備者・ボールを保持している競技者
野球の「かなり」OFF・・・攻撃側のバッター・ランナー以外・守備側の外野手
サッカー「かなり」OFF・・・敵陣で攻撃を続けている際のGK

野球を追い求めている方々には大変無知にも思える話になりますが、乱暴な言い方をすれば野球は18人中大雑把に10人がある程度はOFF・同様な乱暴さで言えばサッカーは22人中、1人か数人しかOFFにならない。もちろん頭の中は常にチームのことを考えてONになっていることはいうまでもないが、サッカーは常に頭も体もONなのだ。
よって、常にチームのことを考えていなければならないし、22人に1個しかないボールのためにぼろぼろになるまで激しく動き回らなければならないのだ。

サッカーにおいては局面における数的優位な関係が多ければ多いほど、ボールを保持しやすい。当然試合を優勢に運べる。局面2対1局面3対2などを生み出し、継続するには、運動量での圧倒・戦術理解やグループ戦術理解に伴う動き出しの速さは必要である。

「チーム力」とは言い方を換言すると「局面において数的優位を生み出す力」ともいえるのではないだろうか。面白いと思えるサッカーは実はパスコースが多い。人も動いているから
でしょう。だからボールがためらいもなく動く。見ている人はいいサッカーだと感じる。数的不利を「個」の力で打開してねじ伏せるように得点を取って勝つチームを「いいチーム」とは評価してもらえないであろう。
ここで忘れてはならないのが、数的有利を生かしながら攻め切ることが出来るチームかということである。数的優位をつくるためにOFF THE BALL で汗をかく選手がどれだけ多いかということが重要になってくる。TOPクラスの技術があり、ポテンシャルの高い選手がそろわなくても、いいチームは十分作れる。(強いチームとは少しニュアンスがちがう)

サッカーがあくまでもチームスポーツであり、チームのことを最優先にする選手を育成するという観点で<選手たちに何を教えるか?>

サッカーに関する指導方法や、トレーニング理論、戦術など、HOW TOが増えてきて、頭でっかちな指導者が横行する中、一見クラシックな中に、ベースをきっちりおさえた指導者がこの育成年代に失われつつあるかもしれない。

すくなからず、日のあたる「ON」でのサッカーを教えるほうが選手もわかりやすく、目を輝かせる。しかしOFFを育てていくことの方が難しく、選手のOFFには目が届きずらい。
育成年代における、かつてのサッカー指導でもチームスポーツであることを重んじ、挨拶や礼儀についてチーム全体でも厳しく指導しているチームを良く見た。そういった指導も昨今の「個」の指導や、「誉める(怒らない)」指導の名のもとに難しいOFFの指導をおこなえなくなっているチームも見る。いくらサッカー経験者が指導者として増えたとしても、指導理念を履き違え、また指導方法や指導理論を都合よく解釈してOFFを指導しない指導者には決してチーム力は上げられないと私は言いたい。
もちろん育成段階では「個」を伸ばすことは非常に重要であり、チームの名ももとに、技術向上を奪ってしまうような指導は「禁じ手」である。DFはクリアーしてればよい。速いやつは蹴って縦に突進すればよい。FWは攻撃さえやっていれば良い。これらを「個」の特長を伸ばす指導であるとはもはや誰も思わないであろう。
数的優位を作ることで、多くの選手がたくさんボールを触る機会を増やす。これがチーム力と個人を伸ばすポイントであろう。当然攻守の切り替えが早く出来ないとならないであろう。その要求に妥協は必要ない!!運動量を上げ、相手ボールになったら全力で守備に切り替える。それをやろうとしない選手にしっかり指導出来ない指導者は前述してあるとおりチームを強くは出来ないだろう。

無責任なプレーや動きを認めてしまったり、流してしまったり私はしたくない。サッカーの指導を通じて人間性の向上を図ることが大前提である。