福田教授の総回診【第27回】「第100回高校サッカー選手権」

「第100回高校サッカー選手権」

 高校サッカー選手権が28日から始まる。コロナ警戒の中での開催ではあるが、今回は第100回大会・五輪のために改修された国立競技場がメイン舞台ということもあり盛り上がりそうだ。大会のレギュレーションに関しては(過去の総回診でも書かせて頂いたが)、選手権の持つその意義や課題(東西プレミアチームのシード出場、大会日程の過密化を少しでも解消することなど)についても少しずつ良い方向に、今後向かうようである。

正月の風物詩として多くのお茶の間の方達や、サッカー少年達にとっては高校サッカーの楽しみ方はいたってシンプルでよい。純粋に華麗なプレー(見事なミドルシュートやFK、浮き球の華麗なコントロール、アイディアのあるプレー、巧みなドリブル)におもしろさを感じる。「負けたら最後」という選手権が生み出す高校生の青春の形やその感動を、見ている人も味わえるTV映像(得点後の喜びの爆発、スタンド応援席での女子高校生や保護者の涙や祈る姿、アナウンサーが語るチームや選手の物語解説、負けたチームのロッカールーム含む)は確かに選手権を盛り上げる。メディアの力に素直に乗っかれば良い。

しかし、国立を目指して高校サッカーをし、指導者として全国の舞台を目指してきて、しかしその夢半ばにして選手権を見るのが最後になるであろう私にとっては、違う見所、視点が加わってしまう。

今回も青森山田高校は別格だが、静岡学園、流通経済大柏、大津、東福岡などの強豪校は対戦校にここ一番の戦いを挑まれ、トーナメント戦ならではの勝つための戦術は興味深いし、それによって想像以上に波乱の試合やPK戦が多くなることを予想している。各都道府県の地域レベルは格段に拮抗してきており、それぞれの代表校は、選手の個の能力だけで勝ち上がっているのではなく、チーム戦術の浸透した完成度の高いサッカーで勝負出来る高校が多い。県の3部リーグ所属でありながら激戦区愛知県を勝ち抜いた中部大一高校などは個人的には何かを学べそうな気がしているし、学ぶべき点が多い大会であるからこそ、サッカーの裾野を広げたいと思っている私としては甲子園での野球のように全試合放映して欲しい。YOU TUBEなど全試合観るためのコンテンツに期待している。(ゆくゆくは高円宮杯U-15の全国大会なども高校サッカー選手権のようになって欲しい)

全国の舞台に勝ち上がってきた各チームに、ある程度共通してしっかりしている点として、次の3点が上げられそうだ。もちろんその共通部分の完成度が高いチームが上位に進出すると思っている。

➀攻守の切り替えの速さ、特に「即時奪回」という、ボールロスト後の守備の切り替えの速さとその強度

②スローイン・CK・FKでの攻撃の形・守備の対応

③高い集中力と運動量

「デュエル」という言葉が取りざたされていて、球際の激しさ、コンタクトの激しさ、そういったことの重要性が説かれ、いまや高校年代でも多くのチームではここが見ていてもわかる。日頃のトレーニングから日常化しているのであろう「速く寄せる、激しく相手にコンタクトする(球際も含む)、競り合いを徹底する、カバーリングを徹底する」、またその中で「止める、蹴る、運ぶ」というサッカーの基本技術を判断ミスや技術ミス少なくプレーすることが出来るのが良い選手であり、そうしたことが80分出来るチームが間違いなく強い。中学生サッカー選手達には是非ともその部分にフォーカスして試合を見て欲しい。こういうことがストレスなく出来て、さらにストロングポイントを磨いて欲しい。

 

私個人的にはチーム作りを仕上げる監督・コーチの手腕を勉強・評価する上で、さらに次の5点を見てみたいと思っている。これから指導者を極めようと思っている若き指導者達には、是非以下の視点を持って欲しい。

➀得点差や時間帯に応じた、交代選手、システム変更、戦術の変化要請とそれに対する選手・チームの変化、特に0-1からの負けているチームの戦い方、勝っているチームの戦い方。

②ビルドアップ・ショートパスを多用するチームが、ロングキック・空中戦、前線スペースへのフィードを多用してくる相手と対戦したときに、どのように自分たちのサッカーに持ち込むのか。

③3人目・4人目をワンタッチ交換から使うサッカーを狙いとしているチームを見つけ、それを、指導しているチームに落とし込むためのトレーニングを考える。

④ペナルティエリア内でのハンド・GKとの1対1以外でのPK獲得シーンの分析

⑤(試合会場に足を運んで)コーチングスタッフの役割を意識した動き、円陣の組み方、挨拶や礼儀から垣間見られるそのチームの日常

こんな視点で高校チームを見ていくと、指導者がもっともっと謙虚にサッカーを勉強したくなるはずである。競技歴の優秀だった人物こそかけてしまう部分かもしれない。

*どれだけたくさんの戦術があるのか。そしてそれは試合のどんな局面、そんな相手にそれらの引き出しを使うと有効なのか。

*自分の持っているチームの指導に基本トレーニングのブラッシュアップや見直しが必要ではないか。

*勝敗を分けたポイントを知ることの積み重ねが、拮抗した得点差が当たり前のサッカー競技の勝率を上げられるのか。→勝負師となる。もちろんセットプレーの研究も。

*サッカーがメンタルスポーツであることを再認識させられる。日常の生活やものの捉え方などのマインドの変化を追求できるか、オフザボールの重要性をどう選手達に理解させ、トレーニングに落とし込むか。

47チーム分のここまでチームを作り上げてきた努力や苦労がしみ出してくる第100回の選手権を私なりの見方で見てみようと思っている。小学校5年生の頃、首都圏開催になった選手権の静岡学園と浦和南の決勝戦(5-4で浦和南優勝)を見て、感動。いても立ってもいられなくなり、友達を集めて広場に行って真っ暗になるまでサッカーをしたことを思い出す。武南高校の全国制覇を見て、武南高校を併願受験校にした中学3年生。TOYOTA CUP(今のクラブワールドカップは東京での1発勝負で南米王者とヨーロッパ王者が試合)で見た、ユベントスのプラティニのボレーシュート、ACミランの組織された守備とオランダ3人衆(ライカールト・ファンバステン・フリット)に虜になった中高生時代。日本サッカーがW杯で優勝する日が来るためにはもっともっとサッカーの裾野が広がり、そして、日本でも独自のサッカー文化が醸成されていくことが必要だ。そのために高校サッカー選手権は続いて欲しいし、子ども達に夢を与え続けて欲しい。頑張れ日テレ、頑張れ帝人(笑)、頑張れ代表校。