逆算からのタスクと指導技術の深掘り
~23期生の春秋連続関東大会出場を振り返り~
春、日本クラブユースの7回目の関東大会出場を果たし、2回戦でFC東京深川に接戦を演じることが出来た。しかしサッカースタイルとしては、守備のストロングを生かし、セットプレーで得点を奪うサッカーに頼るしかなかった。主体的にボールを握り、相手をしっかりと崩してチャンスを意図的に生み出すことが出来るようになるには、相当な技術・戦術向上含めたチーム改革が必要であることは今までの手記の中で書いてきた。また、改革にはリスクが伴うので、ボールを握ろうとして、ミスから失点をし、敗戦するゲームが増えることも覚悟しなければならなかった。高校年代で通用する選手になるには、最低限の基礎的戦術(タクティクス) 理解と、技術(テクニック)を選手達に徹底的に植え付けなければならない。9月に何とか間に合わせるべく、 7.8月のピリオダイゼーションをしっかりと組み立て、カップ戦合宿や嬬恋合宿、強豪高校との度重なる練習試合でも、課題克服を目標に活動してきた。
数的優位を見つけてボールを握ることの出来るシステム的な「戦術理論」と、相手・味方・スペースを観察 して、「数的優位を生かしたり作ったりするための技術・戦術」、「受け手と出し手のタイミング(いつ・どこで)・声のかけ方」、「3角形(トライアングル)利用とそのための5レーン理論」、「攻撃のやり直しのための 切り返し技術」、「DFサード・ミドルサード・ATサードでボールを保持しているときのFWの動き」「FWの駆け引き」を具体的テーマに掲げる中、うまくいかずに大半負けゲームを味わい、明かりの見えない苦しいト ンネルの中であえぎ呼吸をしながら8月が終わった。
思い返しても、7月後半のフォルチさんとの県リーグの敗戦試合は私の指導者人生の中で最も、ショックであり、屈辱であった。8割方ボールを支配し相手コート内で攻撃権を握っていたのにも関わらずFK一発に沈んだからである。この試合をグッドルーザーに出来なかったら「このチームのこの先はない」、そう思って、 鹿島の合宿先に戻って、選手達と長いミーティングをしたことを思い出す。
苦しい夏の活動で、プレッシャーに負けず少しずつ中盤で前を向ける回数が増えた。高校生との試合の成果である。しかしながら、FWがそれについてこない。練習欠席、細かい部分の理解不足、バッドハビット(悪い癖)。計画をマイナーチェンジした。リスク覚悟で今までのダブルボランチによる堅い守備を敷くシステム から、リスク覚悟でワンボランチにして TOP下を置く4-1-3-2へ変更・キャプテンでCBの奥田を FW として起用するオプション用意。9月になってもFWの育成練習は続いた。結果、高円宮杯は5人のFWを (相手DF陣の特徴をスカウティングした上で)70分で効果的に組み合わせる戦い方と、中盤での得点パターンをトレーニングに落とし込んできた。
高円宮杯準決勝は川口東中。中体連川口市内では3年間、学校総合体育大会埼玉県チャンピオンの川口西中との決勝で常に苦杯をなめてきただけあって、いいチームである。トーナメント戦でもあり、不用意なミスによるカウンターには特に注意しながらサイド攻撃を仕掛けた。サイドの数的優位を起点にバリエーションの多さで、後半に相手の隙を付ければと思っていたが、前半5分の決定的なヘディングシュート以外、決定機の乏しいまま後半20分が過ぎる。後半直後から、スタメンの2トップに代わり合計5枚のFWを起用した。運動量でも差が出てほぼワンサイドゲームとなった。最後は右サイドからクロスを、胸トラップからのボレーシュートが左隅に決まって1-0。危なげなく敵陣で時間を使い、プラン通りの1-0で勝利となった。10本 のシュートのうちMF陣で7本打てたことが夏の成果となって現れた。しかし、前半にスローインが雑で、受 け方、投げる場所など7月までに指導したバリエーションが出来なくなっているなどの反省点が浮き彫りになった。そこをハーフタイムで修正させたことが勝因の一つと言えよう。
関東決めの決勝は予想通り、クラブチームを撃破し続けて上がってきた中体連チャンピオンの川口西中となった。昨年の高円宮杯では中体連チャンピオンの南浦和中は1FCやアレグレを倒して関東大会に出場している。川口西中も10番のFWを軸に、中体連優秀選手に6人を擁する隙のないチームである。特に堅い守備と 10番の卓越したスピードとバネのある球際の強さ、個人技で得点を取るスタイルに加えて、7番のCKの質の高いセットプレーは前半、三郷を苦しめた。互角かそれ以上の前半を川口西中にされた印象である。
ハーフタイム、川口東中の時と同じ指示となったが、攻撃面では速くサイドを使うこと・その後にFWへ斜めのパスを当ててから攻撃パターンを作ること。後半途中から左サイド攻撃に対するオプションのあること を指示。守備ではサイドバックとセンターバックの3人で相手の2TOPを見られるように、サイドバックの ポジション取りを徹底させるとともに、サイドバックが攻撃に参加してサイドを破りCKも増やすこと。全体としては守備が攻撃陣を信じて隙を見せないことを要求した。
この試合の後半はチームのベストゲームとなった。この日FWは前半から交代するまでよく走り、サイドに流れて、起点を良く作ってくれたし、中央からサイドバックへの展開が速くなりサイドでの2対1の形が増えた。積極的に高い位置でCBがビルドアップに果敢に関わったことで、相手の10番・9番が守備に体力を使わされ疲弊した。川口東戦よりも、よりワンサイドになった。交代して入った2人の両レフティーが持ち味を出した。数の増えたCKも前日に詰め込んだ練習通りのいい形も表現でき、スローインも前半からまあまあ 良くなっていた。得点はやはり前日練習のロングスローからだ。FWがバックヘッドで流したボールをヘディ ングシュートで決めてくれた。得点後も危なげなく敵陣でボールを保持し、関東大会進出決定のホイッスルが 鳴った。
運動量を切らさず、最後まで声で圧倒してくれた選手達、厚い選手層で後半にアクセントを加えてくれる選手達。前日の紅白戦を総力で戦い、試合出場組に勝利してくれた3年生全体のレベルの高さと気持ち。不満な態度一つ取ることなくチームのために準備、片付け出来るチームワークの高さ。VEO のビデオ撮り含めて、 選手のパフォーマンスのために気持ちを入れて準備してくれた山田コーチ・GK だけでなく、フィールドプレーヤーとのコミュニケーションをプレーヤーズファーストで図ってくれる仲山コーチ、スカウティングや分析、控え選手のウォーミングアップ、的確な指摘をしてくれる大和コーチ、采配に専念できる環境を与えてくれた各スタッフの力も含め、チームの勝利であった。春・秋連続関東大会出場は23期が初の快挙!全国を目指すこの景色・この舞台もう一度を見ることが出来た。
そろそろ精神的にもっと成長して人への感謝の気持ちを言動に表せるようになれると良いと願っている。保護者が今まで、ずっと子ども達に人生を合わせて生活を送ってくれていること、指導者がプライベートを捨てて(ある意味自己犠牲)、指導にあたってくれていること、コロナ禍でも大会を開いてくれている連盟・会場提供チーム・審判や対戦相手、そんな方々の思いに感謝の気持ちを乗せてこれからも取り組んで欲しい。やるのは選手達、こちらは祈るような気持ちで支えることしか出来ない。三郷の23期生には多くの中学校3年生と比較して、人間としてもさらなる成長ができるチャンスがこれから待っている。今出来ることをコツコツやることはもちろんだが、残り3節の県リーグ・11月の関東大会・各自が目指す高校の受験日、それらから逆算して、優先順位を付けてタスクを整理・管理し行動していく姿勢が望ましい。
さて話は変わる。親としても自分の子どもが、自転車を補助なしで乗れなかった時、どのようにしたでしょうか?「こうやって乗るんだよ」といって乗って見せる、とか「そのうち出来るようになるから何回でも挑戦 だよ」といったところでそれは良い指導ではないでしょう。また、論理的に、「前進することで働く慣性の法則」や「バランス感覚」を教えるのは年齢的にも難しいですよね。それでも親は子ども達がおっかなびっくり漕ぐ自転車を後ろから捕まえながら一緒に走って安心感を持たせ、少しスピードが乗ったところ(慣性がはたらき出したら)でそっと手を離してあげる。挑戦した「勇気」を褒め、「成功体験を」共有する。そこには保護者の愛情と具体的対応がある。食べ物の好き嫌いをなくすため、献立を工夫する保護者の対策もまた同じで 「好き嫌いするんじゃありません」「鼻つまんで食べちゃえ」なんていうのは良い方法ではないですよね。
なかなか勝てない選手達に、なかなか得点を奪えない選手達に、「しっかりやれよ」とか「頑張りが足りない」とか「ちゃんと蹴れないのか」いったところでそれは指導ではありません。ちゃんと蹴られるようになる ためにどんなトレーニングが必要なのか、せめてここにフォーカスしてリアリティがあり、段階的な練習を積 み上げる必要があります。そして再び実戦でチャレンジさせ、成功体験を与え、評価する。ここを日々に落とし込みもしない指導者は失格です。またその成功を逆算して計画を立てるのに頭の中だけで実行出来る指導 者はいるでしょうか?そこには「書く」という作業とどう「書く」かという「書く技術」が存在するはずです。
大谷翔平選手は花巻東高校の1年生の時から「マンダラート」を実行していたエピソードは有名ですし、中村俊輔選手もマリノスユースに昇格出来ず、桐光学園で活躍しマリノスでプロになるまで日記を残しています。教え子である中澤佑二も日記を付けていました。森保監督も試合中にメモを取りますし、総裁選に立候補 している岸田文雄氏も国民の声を何冊ものノートに書き記しています。私は30代にマインドマップを JFA マネージメント講習で身につけ、ことあるごとに実践していますし、日々の練習や計画や試合の結果を書き記すのは当たり前になっています。そしてそれが日々進化するサッカー指導メソッドのブラッシュアップの原動力になっています。
また子ども達は「考えてプレーしろ」と良く指導されることがあります。集団スポーツにおいて育成年代から考えてプレーすることは非常に大事なことです。論理的思考は、サッカーはもちろん、これからの人生にお いて、具体的な努力方法や目標達成に向けた計画では重要です。ここで、私は思うのですが、「どう考えれば良いのか」を教えなくて良いのか?ということなのです。安易に「答えを与えすぎてはいけない」こんな言葉 を正当化して実は「どう考えれば良いのか」というのを指導者が理解していないことが多い気がするのです。 これは私自身にもあった指導経験なのですが、スピード不足ではあるが技術はある選手が、持ちすぎて取られてしまうことを改善し、球離れを早くさせるために「周りを観ろ」「ボールだけ見るな」「ボールしか見てないぞ」「もっと簡単に」と選手に注意を与えます。しかし一向にその選手は良い判断が出来るようになりません。 「(周りを)見ろ!見ろ!」言われるから首を振るようにはなったのですが、具体的に得た情報を判断に結びつけることが出来るようになっていないのです。つまり欠点だけ指摘しただけで選手の改善につなげられて いないのです。やはり基本的個人戦術なりグループ戦術が理解出来ていない選手にはその理解を促しつつ、 (「何を・どう見て・その結果」)的確な判断を促す、もう一歩踏み込んだ指導が必要でした。今はビデオを見せて後で映像を見せながら教える「事後指導」が出来るようになり助かっています(現在三郷 Jr Youth FC で は90万円を投資してVEOという動画撮影・配信システムを導入)が、昔はその場の指導でその場の習得が求められており、我々が「周りを観る・見える状態にしておく」について、もっともっと掘り下げて教えるだ けの指導スキルが必要でした。「考えてプレーしろ」「見て判断しろ」をもっと具体的に踏み込んで即座に指導 出来る言語力・伝達力こそが指導力であり、多くの指導場面で、より深い知識と明確な伝達力は指導者が学ぶ べき部分です。まず我々が「考える技術」「書く技術」「伝える技術」を習得する必要がありそうです。この難しい命題に各指導スタッフには挑んで欲しいのです。私もぺップさん、オシムさんやロドリゲスさんにあって そのあたりのことを通訳なしで聞くだけの語学力が欲しかった。
23期生の高円宮杯関東大会出場から逆算した指導計画の結果、副作用による指導不可能な状態を避けるために、私は主治医の治療計画に抗い、抗がん剤治療をストップして9月にグランドに臨みました。それが限られた短い人生の逆算からの優先順位です。私自身は「どう生きるのか」この生き様を遺し、「どう指導するのか」をこの後に続く三郷のスタッフはじめ指導者へのメッセージとしたいとの使命感を持っています。