福田教授の総回診【第13回】捨てる力

捨てる力

本田選手が記者会見で話していましたが、チームがより大きな結果を出すためには、個人としての力は不可欠です。組織力は発揮しなくてもメンバーが個の力を発揮してチームが勝つことがあります。それが続くと、監督が「裏で選手をうまく掌握している」とか「選手の自主性を尊重している」とか言われます。個人力は重要です。そして論理思考が個人力を高める上で役立つことに異論のある人は少ないでしょう。分析力、企画力、説得力などいろいろな局面で論理思考は使えます。しかしここでは、重要だが見落とされがちな論理思考にスポットを当てたいと思います。その一つは「捨てる力」です。あれもこれも取ろうとすると八方ふさがりになる状況では、一番大切なことを押さえて他のことは捨てられる力のことです。最近「断捨離」という言葉をよく耳にしますね。

前の大会で優勝したチームが次の大会の予選で敗退したり、不振にあえぐことは良くあります。優勝してさらに高みを求める結果、色々なあたらしいことを全て描こうとして時間が全然足りなくなったり、チームが統一した戦いが出来なくなったりトータルの運動量が減ったり、メンタル状態が悪くなったりするのです。同じ頂に登り詰めるために、いろいろな階段やルートがありますが、ルートが複雑だと道に迷うことがあるのと同じです。また選手個々が別々のルートを選ぶと頂点にたどり着く時間に差が出てしまうことにも似ています。論理的に考えると物事を難しい方向に運んでしまうことがあります。「論理的に捨てる」ことが出来る力は重要です。サッカーにおいても常に本質を理解し、「何が本当に大事なのか」を考えられれば、そうでないものを捨てて、全く同じではなくとも、選手みんながある程度「意思統一された絵を描く」ということは出来ます。捨てる力って以外に大事です。個の論理的思考による捨てる力が組織力アップにつながることになります。選手の質の維持・向上のため、最近は部員数を限定する高校サッカー部が増加していますね。育成年代では全面的に賛成できませんがこのことも一種の「捨てる力」かも知れません。

5大栄養素などバランスの良い食事を心がけて太ってしまった私などは(いい訳ですが)、実は5大アルコール(日本酒・焼酎・ワイン・ビール・ウイスキー)を捨てる力がないのです。

話し変わりますが、これさえ捨てれば人間、あんがい幸せに生きてゆけるのではないか……と、常々、思っているものが三つあります。それは、「うらやましい」「悔しい」「憎らしい」・・・。この三つの「しい」は往々にして私たちの心をいら立たせ、かき乱し、ストレスだらけにします。さらに夜の安眠を妨げ、食欲を奪い、血圧を上げ、心臓に負担をかけ、元気の源になるエネルギーを奪い去り、結果的にさまざまな病気を誘発するのです。だからこそ自分のために、前もって、この三つの「しい」を捨て去っておくほうがよいのです。とはいっても、なかなか捨てられないのも、この三つの「しい」ですね。幸せそうな人、うまくいっていそうな人を見れば、「なんてうらやましい」と思います。一方で、相手と比べて自分のふがいなさが目についてきて、「悔しい」となり、悔しいが裏返って「憎らしいヤツだ」と、逆恨みすることにもなります。そうやって知らず知らずのうちにかき乱され、気がついたら袋小路に入ってウロウロしているのが、「人の心」というものです。いいかえれば、自分よりも恵まれている人を見て、それでも「うらやましい」とは思わない。「悔しい」「憎らしい」などという思いは起こさない。そういう心境に達するためには、ある種の「心の力」
が必要になる。それも私は「捨てる力」といっておきたいのです。私たちの心をかき乱すものを、捨てる力。私たちの心にストレスをためるものを、捨てる力。肩の力を抜きながらも「ポジティブに生きる力」、上手に「人とつき合ってゆく力」ともいい直せる。また、思い込みや先入観でガチガチになった固いアタマを捨て、「柔軟に生きてゆく力」でもあるのです。まとめてみれば、人が「幸せになる力」ということになりそうです。

本題からそれていますね。まとめにかかります。思春期の中学生はサッカーと勉強だけに集中できないのですよ、なかなか。保護者からしてみれば、クラブチームに通わせ、塾に通わせこれだけのことをしているのだから・・・と・・・ストレスたまりますよね。

情報が飽和し、錯綜し、その情報の取捨選択(捨てる力)だけでも大変な世の中です。スマホや携帯を手に、どのくらいそいつに向き合っているか。選手も保護者もです。本当に今大切な物事は何なのか、それを理解し、林さんの言うところの「いつやるの?今でしょー」は我々の「捨てる力」にかかっているのかも知れません。

何にも捨てられないと、逆に何にも手に入らないのです。