福田教授の総回診【第29回】「理想的育成組織と夢のある育成」

「理想的育成組織と夢のある育成」

 2008年から2012年バルセロナ監督にペップが就任してから5秒ルールの下に即時奪回のためのプレッシング→リトリートという守備スタイルが世界を席捲し、その後クロップ率いるドルトムントがそれを凌駕するゲーゲンプレスを形にした。今や世界はリトリートからのゾーンディフェンスをとるチームが珍しくなった。球際の激しさ、コンタクトの激しさ、そういったことの重要性が説かれ、育成年代からも取り組まれている。前回の総回診でも書きましたが、高校選手権の代表校ほとんどが、攻守の切り替えが速く、特に守備の「即時奪回」を狙い厳しく囲い込んでくる。ベスト8で敗れてしまったが、攻撃力やドリブルなどのテクニックばかりがクローズアップされる静岡学園だが、前線と中盤の守備は仲間の距離感と相まってかピカイチだった。最終ラインの個の身体能力が高ければ、青森山田以上のチームだった。しかし、予想通りトーナメント戦ならではの、相手分析からのストロング封じ込めでPK勝ちをおさめたチームが現れた。関東第一や近大和歌山、大津の守備(ほぼ完全リトリート、ブロック守備)である。それぞれの守備の仕方は静岡学園や流通経済柏、前橋育英には有効であった。関東第一と静岡学園の試合は奇跡とも呼べる関東第一の勝利であったが、それ以外では、「奇跡的とは言い切れない狙いのはまった番狂わせ」が多くあった。

さて、今回は2種(高校・ユース)年代だけでなく3種・4種の育成という観点で総回診をしてみたい。

まず、女子の日テレメニーナの皇后杯ベスト4は凄かった。2種・3種で構成されたメニーナは大宮アルディージャベントスやINAC神戸などのWEリーグ勢を技術力で上回り勝利、負けはしたが、ジェフ千葉レディースにボールを支配するスタイルを貫きながら対抗、自陣でのボールロストからの1失点を挽回させてもらえないまま敗戦となったが、10回戦えば半分以上は勝てる内容であり、素晴らしいサッカーを展開した。徹底した自分たちのスタイルを貫き、最後まで戦う姿には、日本女子サッカーの明るい未来を感じさせられた。本当に・本当に凄かった。

4種では、埼玉のレジスタFCが全少で優勝した。決勝のアントラーズ戦の五十嵐君の左足は神がかっていたし、守備の完封劇も見事であった。レジスタさんは4種の名門中の名門で、10年以上J下部チームに一歩も引けを取らない。隣町八潮に活動場所を持つチームで、10年近く練習試合等で、Jr Youthのスクール生の相手をしていただいてきた。ここ数年はJr Youth主催の4種カップ戦にも参加して頂き、常に優勝している。参加する他のチームもレジスタさんに勝つことよりも、試合が出来ることをモチベーションにしているチームすらある。それほど強いのだ。立ち上げて2年目を迎える我がPASIONは、5年生が最高学年のチームで、新人戦で初めてレジスタさんと公式戦を戦ったが、残り15秒の失点により0-1で敗戦してしまった。本当に学ぶところが多い。うまさはもちろんだがそれ以上に速く寄せる、激しく相手にコンタクトする(球際も含む)、競り合いを徹底する、カバーリングを徹底する、ジュニア年代で勝つためのノウハウがちりばめられている。

ジュニア年代では、技術力の不安定さや身体能力の差が激しいこと、経験値が少ないことなどから、守備面においてやることを単純化し繰り返し徹底的に行えるチームが強いことは、現場にいる指導者なら良くお分かりのことであろう。かつての育成年代での守備指導については、疲れる・つまらない、という図式が作り出されてしまっていたのか、厳しいマークと大きく蹴り出すことだけが求められ、「ナイスクリアー」「大きく蹴れ」「持つな」「縦に」というコーチングがよくベンチから、またチームメイトからも聞こえていた。しかし近年は8人制が主流になり、選手が攻守ともに関わるため、守備者はただ大きく蹴り出せば良いというレベルでは駄目である。良い守備は即、良い攻撃につながることもあり、守備力だけでなく、技術の高い(おもしろさのある)ディフェンス選手の育成も出来ている。レジスタさんはまさにそんなチームである。PASIONは今後、レジスタさんを上回るボール支配だけでなく、激しい守備をかいくぐる技術、速いサポートが出来るように、インテンシティの高い基礎トレーニングがボールロストを怖がらずに繰り返される必要がある。トレーニングマッチでのテーマを徹底し、その都度細かい技術的課題を抽出して、トレーニングに落とし込むスタッフの情熱も求められる。

私の経験では、2種までの育成年代では県大会ベスト8くらいは、小手先の指導で何とかなる。守備だけでなく攻撃も縦へとスピーディーにして、判断の速さというよりはむしろ決まり事としての速さ、(スキルというには下手くそでも)スピードやカバーリングで応戦し、リスクを冒さない攻撃で戦えば何とかなる。守備を徹底すると相手のミスを誘発しやすく心理的なダメージも与えることができ、攻撃面も上手くいきやすくなる面があると考える。しかしそういった戦いをするとなると、試合中、指導者のコーチングは途切れることなく「いまだ」「蹴れ」「いけ」「戻れ」「はめろ」など指示を与えているというよりは選手を操作することにつながりやすい。そのため、ワンプレー毎に指導者の顔色を窺っている選手も見受けられるようになる。私もそういう選手を見たことがあり、責任を感じてしまったことがある。

先につながる指導を精一杯頑張ったものの、どう見ても実力差(敗色濃厚)のある公式戦、とりわけトーナメントでは勝たせてやりたい気持ちが勝ってしまうのである。県立高校という選手を集めることが出来ない無名の2種のチームを率いることがスタートであった私の指導者キャリアでは、それが精一杯であった。結果的には中澤佑二という日本サッカー界を代表するセンターバックを輩出出来たものの、彼は自身の持つ向上心であそこまでの選手となったのであって、私が育てたなどという傲慢な態度は取れない。一貫指導の目的で3種のチームである三郷Jr Youthを作ってからは、基本を徹底し、スキルを重視してきた。それでも高校年代で大活躍した選手と言えばセンターバックが大半を占めた。育成という年代にいながらもプロには到底なれないレベルの多くの選手達には目先の好成績がおさめることが、高校進学や選手の自信になり、且つ、チームの新規加入希望選手のレベルを少しでもあげるためには求められた。

プロサッカー選手になりたいという夢を持つ子ども達が増えてきた。育成について、永遠に話題となるのは、4種・3種・2種の目指す段階的指導の目標地点が、理論ではわかっていても、統一した共通意識がされづらいということだ。ジュニアはジュニア。ジュニアユースはジュニアユース。ユース年代はユース年代における試合や大会の勝利・優勝に向けて選手やチームを仕上げようとしてしまうこと。そこでは、選手のその後はどうでもよく、目の前の試合、目の前の大会に勝つためのプレーが優先されてしまう。そのため、技術力の不安定さや身体能力の差が激しいこと、経験値が少ないという部分が「狙い目」となり、身体能力依存的なプレーやハードワーク、単調なプレーや決め事を増やし、選手を動かした方が手っ取り早くなってしまう。

4種・3種でスピードやパワーに依存した大雑把なプレーばかりをした選手が巧みな選手となりうるのだろうか。ハードワークやアグレッシブさでプレーしてきた選手が賢くプレーすることはできるのだろうか。指導者に動かされてきた選手は、自ら判断しプレーできるようになるのだろうか。勝敗を競い合うのがスポーツではあるが、勝ちたいと思い、負けたくないと思うのも選手であるべきで、指導者の気持ちが強すぎると、育成とのバランスが取れなくなってしまう。そのバランスが崩れても指導者は良いのかもしれないが、土台づくりの時期を棒に振るうようなことになれば、選手にとっては好ましいことではないだろう。

当然のことといえるが、青森山田中、静岡学園中、神村学園中、昌平高校の下部組織とも言えるLAVIDAなど、6年の一貫指導体制を確立しつつある中学校(クラブ)出身の選手にJ Youthに昇格出来なかったJ 下部Jr Youthの選手を組み合わせた高校の台頭が目立つ。そしてプロチームの目にとまる選手もそれらの高校出身者が多い。理想に近い形が作られ始めている。うらやましいが、これからのトップレベルの選手育成はこのシステムを完成したチームに限りなく限定されてくるように思う。負け惜しみになるし、悔しいが、もはや普通の公立高校のみの3年間でプロ選手を育成することなどまさに、奇跡になるであろう。

現在育成からの一貫教育がなされているJ下部やその他のチーム出身の選手が世界で通用するレベルまでプロ昇格後成長出来ているとは思えないが、中学年代までで基本技術の土台の上にある卓越した(ドリブル・コントロールなどの)テクニック(と、それを持っているからこその判断力)、コーディネーション、瞬発的スピードを身につけて、高校で活躍出来る選手が、MFやサイドアタッカーではプロになる必須条件だ。例を挙げれば、遠藤保仁・中村俊輔(パス型)・中田英寿・遠藤航(強さ型)・相馬・三苫(ドリ型)などは必須条件+強烈なストロングを持ち、日本代表となった。

FWの育成は極めて難しい。体の強さ・スピード・強烈なシュート力・相手DFとの駆け引き力などが、ずば抜けて突き抜ける怪物級のストロングを持ち、得点を奪うことに対する野獣のような感性が必要である。日本サッカー界の永遠のテーマであるが、今の日本の生活様式や文化、教育プログラムでは厳しい気がする。外国人の血を入れるか、幼少期からヨーロッパでサッカーアカデミーに所属させることが近道になってしまう。

一方、中澤・闘莉王・吉田麻也・富安クラスのDFは身長185cm以上の体格にヘディングや絶対的対人力などの希少価値があることが、より求められるので前述しているような必須条件は絶対ではない(これも備わっていたら世界で通用する)。セットプレーの重要性は言うまでもないのでこの手の選手はCKなどの得点源としても欠かせない。この選手であれば街クラブや6年間以上の一貫指導が体系的になされていないチームからの輩出が可能かもしれない。

いずれにしても、こういった選手をしっかりと育成していける指導体制を有しているチームが求められている。これからのサッカーチームの世界に通用する指導体制は以下のようなことが理想である。(JFAアカデミーがそのモデルを作り引っ張っていくことも理想である。)

★小学生年代からのしっかりとした8年以上の一貫指導体制を持ち、それをしっかりと理解したカテゴリーごとの優秀な指導者がいる。

★人工芝・天然芝・ナイター施設・クラブハウスの環境整備

★栄養指導・戦術や駆け引きを身につける勉強やコミュニケーション力・論理的思考教育プログラムを有している。

★常に選手の将来を見据えた育成力・デモンストレーション力・伝える力(話術・目力)・映像を上手く使える処理・編集力・試合分析力とそれらをトレーニングに落とし込める指導技術・絶対的熱量を持つと同時に自主・自律(自分自身で課題を解決していける選手)を育める、人間性を伴ったしっかりとした指導者がいる。

そういったチームが複数、3種・4種の育成年代に増えて、高いレベル・強度の試合(リーグ戦)が組まれていくこと、世界に目を向け欧州チームとパイプを持つ事が理想であろう。

そして育成の仕上げに2種。何度も総回診で述べさせて頂いていますが、日本の高校サッカーは世界にない素晴らしい環境である。4500近い2種のチームが存在し、人間教育をベースにした情熱溢れる高校教員がたくさんいる。高校選手権という民放中心に運営され、学校やクラスメイト、保護者、高校サッカーファンをサポーターにしての大イベントを持っている。こんな国は他にはないであろう。

そこで、こことJユースがトーナメントでぶつかり合う、2種の天皇杯のような大会をJFAが深く関わり、同時に優勝賞金を相当額用意できないだろうか。当然その賞金はチームの環境整備に使われていく。(現在東西プレミアの決勝や高校チャンピオンとユースチームのチャンピオンの試合はあるが、物足りない。)具体的には東西プレミア16チームと都道府県代表47チーム、さらにJFAアカデミーを入れて64チームトーナメントなんていうのはどうだろう。冬休み開催12月25日あたりから開催し成人の日で決勝。その後、上位4チームとは別に全国大会に出られなかった高体連の選手達で構成される日本高校裏選抜を日本サッカー協会の技術委員が組織し12月からチーム作りをしておく。3月にJFA主催で世界のトップレベルのU-18ユースクラブを日本に招待し、国際ユース選手権インJAPANを12チームくらいで開催する(日本チーム5・中南米2・欧州5)。観客動員の見込まれる地方予選も準々決勝くらいからはスタジアムでの有料観戦とし、加えて協賛各社からのお金を運営資金にすれば、出来るかもしれない。日本2種の青春の全てを賭けた熱い戦いと応援のすごさ、2種年代が生みだしたセットプレーなどを世界に発信するチャンスともなる。また、上手くいけば高校卒業即海外ビッグクラブ契約のチャンスなど、この大会から世界へ羽ばたく選手をつくることにもつながるかもしれない。

3種までの良い育成と2種での世界アピールの場。夢のある理想的育成をみんなで考えていこう。

三郷も理想的クラブPASION・三郷Jr Youth・提携私学高校やU-18クラブ創設などの流れを作り・プロ選手の更なる育成に向かって一貫教育→プロ育成の道を作っていきます